内村鑑三 「平凡の道」
内村鑑三 「平凡の道」
(大正十二年一月十日 聖書之研究第二百七十号)
平凡に上等なると下等なるとがある。
下等なる平凡は、凡俗と万事を共にすることである。その中に勇敢なると高貴なることなく、何事も凡俗が為すがごとくに行う。これ、決して誉むべきことでない。
しかれども、平凡にまた上等なるものがある。それは、天然自然の道を取ることである。
この意味において、神の為し給うことは、すべて平凡である。神は容易に奇蹟を行い給わない。四季の循環、草木の生長等、すべてが平凡である。
我らもまた、神に倣いて行うべきである。人はキリスト者となりたればとて、異様の人となったのではない。当り前の人となったのである。ゆえに当り前の人として行うべきである。
「人のパンを価(あたい)なしに食することなく、ただ人を累(わずら)わせざらんために労苦して昼夜働けり」と言いしパウロは、平凡の人であった(テサロニケ後書三章八節)。
偉人はすべて平凡の人であった。英国のジョン・ブライト、米国のリンコルン、わが国の西郷隆盛等、皆しかりである。我らもまた努めて、偉大なる凡人たるべきである。